(注1)ドーパミン
中脳にあるドーパミン神経から放出される神経伝達物質で意欲と報酬による学習など制御する。ドーパミン神経は生体では5Hz程度の周波数で活動しており、脳内には常に一定量のドーパミンが存在し、報酬や罰など外的な刺激により濃度が変化する。
(注2)側坐核
側坐核は新皮質や海馬、扁桃体といった脳領域からグルタミン酸作動性の興奮性入力を受けると同時に腹側被蓋野からドーパミン神経の入力を受ける。ドーパミン神経がグルタミン酸神経伝達の可塑性を調節することで報酬による学習が起こると考えられている。
(注3)スパイン
神経細胞間の接合部位をシナプスと呼び、シナプス前部からグルタミン酸が放出され、シナプス後部で受容されることで神経活動が伝達される。スパインはグルタミン酸作動性シナプスの後部に存在する1ミクロン以下の棘状の構造物であり、大きいスパインほどグルタミン酸感受性が高い。スパインという突出構造はシナプスの個別可変性を起こし記憶の集積性を高める。スパインはさまざまな種の動物の脳の最も高次中枢の神経によく発達している。その形は多形であり、その頭部の大きさがシナプス結合強度を決める。
(注4)頭部増大
スパイン頭部の体積が増大することで表面受容体の数が増えシナプス結合強度が増加する。このようにシナプス結合強度が変化することをシナプス可塑性と呼ぶ。スパイン頭部増大の様な形態可塑性は速く起き長期化するので学習・記憶との関連が強い。
(注5)条件づけ学習
動物に無条件に反応を引き起こす刺激(無条件刺激、例えば水の提示は舐める反応(リック反応)を引き起こす)を特に反応を起こさない刺激(条件刺激、CS、例えば音)の後に繰り返し提示すると、条件刺激だけで動物は反応を起こす(条件反射)ようになる。このような学習を古典的(パブロフ)条件づけと呼ぶ。
(注6)光遺伝学
光活性化タンパク質を細胞に遺伝子導入することで、細胞機能を光により制御する技術。本研究
においては光の照射により細胞内に陽イオンを流入させることで細胞を発火させることができるタンパク質をドーパミン神経細胞に発現させ、光によるドーパミン神経細胞の操作を行った。
(注7)2 光子アンケージング法
2 つの光子が同時に分子に吸収される現象を2光子励起という。対物レンズにより超短パルスレーザーを焦点に集約させることで、微小な体積でのみ2光子励起を誘発することができる。この方法をケージド・グルタミン酸(不活性化されたグルタミン酸)に応用することで、微小体積でグルタミン酸が活性化され、従来の電気刺激では不可能だった単一のスパインへのグルタミン酸刺激が可能となった。この励起は赤外光を使うので、光遺伝学と併用することができる。
(注8)弁別学習
2つ以上の知覚刺激を用いて、それぞれの知覚刺激に対して異なる反応が生じるようになる学習のことを弁別学習という。本研究においては一方の刺激に対しては報酬を与え、他方の刺激には報酬を与えないことで、報酬の有無を弁別して動物が条件反射を示すようになる古典的(パブロフ)条件づけの弁別学習を用いた。この報酬の有無を弁別する学習は、例えば聴覚皮質が関わるとされている音の高低そのものの弁別学習(音の高低を弁別して異なる行動をとることで報酬を獲得する学習)とは異なると考えられている。
(注9)消去学習
条件づけ学習後に、条件刺激(CS)のみを無条件刺激なしで与えることを繰り返すと、条件反射が起こらなくなっていくこと。弁別学習では報酬がもらえるCSを区別することを学習するが、消去学習では報酬が全く来なくなったことを学習する。
(注10)価値情報の帰属障害
統合失調症では何らかの原因により一般には報酬や罰などの価値を伴わない環境情報に対しても価値を見いだすことが妄想などの精神病症状の基盤にあるものと考えられるようになってきた (Kapur, S. American journal of Psychiatry, 2003)。