Neuron 57 (2008) 719-729.

スパインのアクチン繊維による運動

樹状突起スパインの唯一の細胞骨格はアクチン線維です。小さなスパイン内のアクチン構築をアクチン-PAGFPを発現させ光で標識して調べました。スパインの先端部では膜から逆行性にアクチン重合が起きており、この力によって頭部が膨れます(図A,B)。大きなスパインは常により大きな力を出しています。一方、スパインの基底部には安定なアクチン線維があり、先端部のダイナミックなアクチン線維の支えとなっています(図C,D)。この二重構造は軸索の成長円錐の構築と同型でした。スパインをグルタミン酸の2光子励起で刺激して頭部増大を起こすと、第三のアクチン線維が生成され、これによりスパインが押し広げられました(図E,F)。面白い事に、このアクチン繊維(別名メモリーゲル)は時々スパインから流れ出してしまうことがあります(図G)。こうなると、スパインはしばらくすると元の大きさに戻ってしまいます(図H)。この様に、ものを覚えるにはメモリーゲルがスパインに留まることが必須であることがわかりました。このゲルを固める因子として、これまで記憶学習に重要であると考えられてきた、リン酸化酵素(CaMKII)が関係しています。また、スパインの細いネックもメモリーゲルの流失に一役買います。この様に記憶の獲得は化学的だけでなく、とても力学的な現象であることがわかりました。スパインは脳内で最も力を出し運動する構造で、その運動や運動障害をより良く可視化することが脳の理解に重要そうです。