3. 2光子励起法とは

2光子励起とは、二つの光子が同時に分子に吸収され励起を起こす現象です(図a)。2光子励起といってもレーザーを二つ使う訳ではありません。フェムト秒レーザー光では光が非常に短い(約100フェムト秒)パルスに圧縮されており、パルスの期間中は極端に強い光がでています。これをレンズで集光すると、焦点では光の密度が異様に強くなり、通常起きることのない2光子吸収と励起が起きます(図b)。焦点以外では光の密度が十分でないために、2光子吸収は起きずレーザー光は標本を通り抜けます。こうして観察に関係のない光の吸収をなくすことができます。また、2光子励起には近赤外の光を使うために組織のより深部まで見ることができます。こうして、2光子励起顕微鏡法は臓器のやや深部における分子・細胞機構を見る、現在最強の方法論となっています。なお、1・2・3・・光子励起というのは物理学の専門用語で、伝統的には算用数字を用います。

言葉を替えると、通常の1光子励起法による観察では、組織や細胞の深部はあまりよく見えていなかったということになります。これが、2光子励起顕微鏡を用いた研究が多くの成果を生む理由です。我々は、2光子励起顕微鏡法を研究しているわけではありません。しかし、これまで見えなかった真の生理現象を直接観察しようとすると2光子励起しかない、という結論にいつも至るのです。2光子励起法の最大の短所は装置の総額が高価となるだけでなく、その維持・運用が難しいことです。しかし、2光子励起法はレーザー技術の進歩に伴い、20世紀の方法論である微小電極やパッチクランプ法と肩を並べ、21世紀の機軸的な方法論に成長すると考えられます。

2光子励起法は応用されてまだ間がなく、その可能性の一部しかまだ使われていません。実際、私たちはこの方法に基づく、二つの新しい実験手法を確立しました。一つは光化学現象に2光子励起を用いることで、細胞を刺激する手法で、2光子光化学顕微鏡と呼ぶべき手法です。この手法は現時点ではケイジドグルタミン酸において著しい成果を上げていますが、今後、様々の光化学現象で組織に刺激や標識が入れられるようになります。もう一つは、組織間隙の微少な形態変化を捉える方法で、TEP画像とTEPIQ法です。この方法によれば、分泌現象に関係する細胞形態のナノメーター計測が可能となります。

今後も、私たちの研究室では2光子励起法を開拓し、分子生物学や工学的方法論と組み合わせることにより、脳や分泌臓器が働く様子のより直接で能動的な観察を進めます。