機能生物学セミナー(平成28年度)

医学共通講義III 機能生物学入門

生体がどのようにして機能を発揮するかという根源的な問題の解決には、様々な角度からのアプローチを有機的に連結していくことが必要です。本講義では、中枢神経系の機能発現メカニズムを中心として、以下のテーマに関連した研究を紹介し、どこまで解明が進んでいて、今後どのような研究が必要なのかについて解説されます。記憶形成・想起メカニズム、記憶・学習の分子機構、嗅覚神経系の機能発現メカニズム、視覚受容の細胞メカニズム、シナプス伝達調節機構、グルタミン酸受容体の分子機構、細胞内カルシウムシグナル機構、発生・分化の分子機構など。

平成28年度

 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 

2017年1月16日 14:55~16:40 第6セミナー室
自然知覚を司るヒト脳内情報表現の定量モデル化と解読
情報通信研究機構 脳情報通信融合研究センター 西本伸志 先生

 私たちの自然で何気ない日常生活は、多様で複雑かつダイナミックな感覚入力を処理する高度な脳機能によって支えられています。脳神経科学のゴールの一つは、このような自然な体験を支える脳情報処理の仕組みを解明することです。近年、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を代表としたヒト脳神経活動の非侵襲イメージング技術、およびその計測結果を解析するための数理解析技術の発展に伴い、動画視聴下などの自然で複雑な条件下におけるヒト脳神経活動の定量理解を目指す研究が進展しています。本セミナーでは、動画視聴下等における脳神経活動の定量的予測モデル構築を介した、ヒト大脳皮質における自然知覚・認知表象の解明や、その逆問題としての脳神経活動からの体験内容のデコーディング、またそれらの応用に関する展望等についてご紹介いたします。

参考文献: Nishimoto et al., Curr Biol 2011; Çukur et al., Nature Neurosci 2013; Huth et al., Nature 2016

 


2016年12月19日 14:55~16:40 第6セミナー室
膜受容体のChemical biology:ケミカルラベルと活性制御
京都大学大学院工学研究科 合成・生物化学専攻  浜地  先生

 タンパク質の特異的なラベル化は、その機能解析のための基本的なツールである。抗体による標識や蛍光タンパク質の融合が一般的な方法として広く用いられる一方で、ケミカルな手法は選択性が低いことが多く、敬遠されがちであまり普及していない。我々のグループでは、「夾雑系の化学」を開拓する過程において、内在性タンパク質を生細胞系で選択的にラベル化する化学的な方法論の開発を行ってきた。その中で、リガンド指向性化学と名付けた手法が、AMPARやGABARなどの神経伝達物質受容体の生細胞でのラベル化に適用できることを最近明らかにした。またグルタミン酸受容体の結晶構造をベースに、活性制御のためのchemical geneticsツールの開発も進めている。ここでは、これら発展途上の分子ツール(技術)の可能性と限界について議論させていただきたい。

参考文献:I.Hamachi et. al., Nature Chem, (2016), Nature ChemBio, (2016), Nature Methods (2016)


2016年11月21日 14:55~16:40 第6セミナー室
嗅覚神経回路の形成機構について
さきがけ研究員 竹内 春樹 先生

 高等動物の脳のもつ高度な情報処理能力は、108を超える神経細胞が構築する複雑かつ精緻な神経回路によって担われている。従って、神経回路がどのように形成されるかということを明らかにすることは、脳機能の理解並びに脳神経における再生医療の観点からも必要不可欠であると考えられる。

 我々は、神経回路形成の基本原理を理解するべく、マウスの一次嗅覚系をモデルに研究を行っている。マウス嗅覚系は、細胞の「神経個性」が発現する嗅覚受容体の種類で標識できるという点で、回路形成の研究において極めて優れたモデル系となっている。本セミナーでは、嗅覚受容体遺伝子の発見から25年、飛躍的に理解が進んだ嗅覚神経回路の形成機構の概要を説明すると共に、そこから見えてきた回路構築の一般原理について議論したい。

 


2016年10月3日 14:55~16:40 第6セミナー室
大脳皮質神経回路再編:ニューロンーグリア連関
自然科学研究機構 生理学研究所 鍋倉淳一 先生

発達・神経損傷回復期や各種病態に伴う脳機能変化には神経回路の再編が存在する。一方、各種グリア細胞がシナプス形態・機能を制御することはin vitro実験系で多くの知見が得られているが、生体における神経回路の長期再編への役割は、生体イメージング・操作技術を用いてようやく可能となってきた。今回、脳内免疫細胞であるミクログリアによる大脳皮質シナプス監視・神経回路構築・局所神経回路活動制御、慢性疼痛発症に関連する大脳皮質痛覚回路構築へのアストロサイトの関与について、最近の知見を紹介する。
参考文献:Wake et al, J Neurosci 2009, Kim et al. J Clin Invest 2016, Miyamoto et al. Nature Com 2016.



2016年9月12日 14:55~16:40 第6セミナー室
複雑なニューラルネットワークを形成する遺伝子コード:クラスター型プロトカドヘリンによるニューロンの個性化とニューラルネットワーク形成 (Gene codes for generating complex neural networks in the brain)
大阪大学 大学院生命機能研究科 時空生物学講座 八木 健 先生
脳にある個々のニューロンは複雑なニューラルネットワークをつくり、私たちが生きている中での莫大な情報を処理・記憶している。また、これらの情報を統合することにより、意識や心が生まれる。近年、ニューロンは個性ある神経活動をもち、様々な集団的活動(セルアセンブリ)を生みだすことにより、莫大な情報を処理し、記憶し、統合していることが明らかになってきた。よって、脳における情報処理を理解する為には、ニューロンの個性化とニューラルネットワーク形成メカニズムを明らかにする必要がある。脳神経系で発現するクラスター型プロトカドヘリン(Pcdh)は多様化膜遺伝子群であり、免疫グロブリンやT細胞受容体遺伝子群と類似した遺伝子クラスター構造を持つ。興味深いことに、このクラスター型Pcdh遺伝子群は、単一ニューロンにおいて異なった組み合わせ発現していることが明らかとなっている。この遺伝子制御にはクロマチン構造やエピジェネティック調節機構が関与している。また、個々のクラスター型Pcdh蛋白質は同種が結合する(ホモフィリック)細胞接着活性をもつこと、Pcdh分種間のヘテロ蛋白質複合体形成がこの細胞接着活性に影響することが明らかとなっている。現在、私たちは遺伝子操作マウス解析、シミュレーション解析により、脳におけるクラスター型Pcdh遺伝子群の機能について解析している。ここでは、それらの結果を踏まえ複雑なニューラルネットワーク形成に関わる遺伝子コードの役割について議論したい。


2016年7月11日 14:55~16:40 第6セミナー室
海馬・嗅内皮質の情報処理機構
大阪市立大学 大学院医学研究科 神経生理学教室 水関 健司 先生
エピソード記憶に重要な海馬・嗅内皮質は、一般的には興奮性フィードフォワードの神経回路であると考えられている。この回路内で情報がどのように処理・伝達されるかを調べるため、多点記録法を用いて、場所課題中のラットの海馬と嗅内皮質の様々な領域から100個程度の神経細胞を同時記録した。その結果、探索行動時のシータオシレーション中には、各領域の神経細胞の発火のタイミングは、上流領域からの入力ではなく領域内の局所回路によって制御されており、各領域が情報処理の独立性を確保していることが示唆された。
局所回路の情報処理を理解するには、どのような細胞が局所回路を構成しているかを知ることが重要である。海馬CA1錐体細胞は均一な細胞集団とみなされてきた。しかし私達は、浅層と深層のCA1錐体細胞は、発火やバーストの頻度、発火の起こるシータ波やガンマ波の位相などが異なり、それぞれが特有の情報回路を形成していることを見出した。
さらに、海馬と嗅内皮質の発火頻度・同期性・スパイク伝達効率などは対数正規分布に従うことを見出した。1日の範囲内では脳状態、環境、課題の種類、課題の新奇性などにかかわらず、個々の神経細胞の発火率は比較的固定されていた。これらの結果にもとづいて、記憶が脳内でどのように割り当てられるのかに関しての私達の考えを紹介したい。

2016年6月13日 14:55~16:40 第6セミナー室
両耳間時差検出の神経回路機構
名古屋大学大学院医学系研究科 久場 博司 先生
我々が音の来る方向を聞き分ける(音源定位)際には,左右の耳に達する音のマイクロ秒レベルの時間差(両耳間時差)が計算される.この計算には,脳の聴覚神経回路にある同時検出器が両耳からのシナプス入力の同時を正確に検出することが必要である.鳥類の脳幹では,大細胞核(NM)と層状核(NL)からなる神経回路がこの役割を担う.NM細胞は聴神経によって運ばれてきた音の時間情報を正確に両側のNLへと中継する.一方,NL細胞はこれらの入力の同時検出器として働く.これらの神経核では,神経細胞の形態や機能が音の周波数に応じて巧妙に分化することで,各周波数帯域での正確な情報処理が実現されている.例えば,NMでは,シナプス終末の形態や軸索でのナトリウムチャネルの発現量を変化させることで,周波数帯域間での神経活動の時間揺らぎの違いを補正する.また,NLでは,軸索でのナトリウムチャネルの発現部位を変えることで,神経細胞は周波数帯域間での入力頻度の違いに関わらず正確な同時検出を行なう.さらに,我々は最近,NLでは樹状突起の長さと突起上のシナプス分布にも周波数に応じた違いがあることを見出した.本セミナーでは,これら両耳間時差検出の分子細胞基盤を概説するとともに,その獲得原理を明らかにするために現在我々が行なっている取り組みについても紹介する.

2016年5月9日 14:55~16:40 第6セミナー室
恐怖記憶制御のメカニズム
東京農業大学応用生物科学部 喜田 聡 先生

「一時間ほど前、チーズとハムを買いに行こうとホテルの向かいのスーパーマーケットに行ったが、ドアを開けようとした瞬間に奇妙な不安に襲われた。そう言えば、昨年九月十一日、このマーケットに入ろうとしたときに携帯が鳴って、同時多発テロを知ったのだった。そのときの衝撃が意識下に刷り込まれていたのだろう。具体的な「場所」によって喚起されるイメージは強い。チーズとハムを買う間も動悸がなかなか収まらなかった。」(村上龍著作「熱狂、幻滅そして希望」より引用)。
 恐怖記憶とは、恐怖体験時に感じた「恐怖」とその時に五感で感じた「文脈」とが関連付けられた条件付け記憶である。恐怖体験した文脈や、文脈中の手がかり(音、匂いなど)に遭遇すると、恐怖記憶が想起され、恐怖反応が生じる。げっ歯類では、パブロフ型恐怖条件付けの一つ恐怖条件付け文脈記憶課題において、床に電線を敷いた小箱の中で、軽い電流を数秒間流して電気ショックを与えて、マウスに小箱(文脈)と恐怖との関連付けを学習させる。この時に、恐怖記憶が形成されていれば、マウスを小箱に戻した時に、恐怖記憶が想起され、恐怖反応が表出する。冒頭のエピソードは、ヒト版恐怖条件付け記憶と言え、ヒトと動物の恐怖記憶制御基盤は共通していることを示している。
 記憶は不安定な短期記憶から遺伝子発現依存的な「記憶固定化」のプロセスを経て安定な長期記憶へと移行する。また、記憶は永久に不変なものではない。記憶が思い出(想起)された後に誘導される記憶プロセス群の存在が証明され、「再固定化」や「消去」のプロセスを経て、記憶が修飾、あるいは、増強・減弱されることも明らかになりつつある。我々は、恐怖記憶にフォーカスして「固定化」、「再固定化」、「消去」の意義とそのメカニズムの解明を進めている。本講義では、このような記憶プロセスの制御基盤を紹介し、さらに、恐怖記憶制御基盤に基づいて、トラウマ記憶を原因とする「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」の治療方法を開発する試みも紹介する。


2016年4月18日 14:55~16:40 第6セミナー室
生後環境による神経ネットワークの形成と成熟
Early life experience change dendrite patterning and neuronal connectivity
RIKEN BSI 下郡 智美 先生

生後の脳発達には個体が生育する環境に適した脳機能を獲得するために、外部入力に合わせた神経細胞の形態変化と脳神経回路形成を行う事が知られている。しかし、種によって生育する環境が異なる事、利用する感覚器官が異なる事から、種特異的な脳神経回路発達を起こす様々な分子基盤がある事が想像されていた。しかし、我々はヒゲを多く利用するマウスでは大脳皮質体性感覚野、視覚情報を多く利用するフェレットやコモンマーモセットでは視覚野に共通して発現する因子が多く存在することから、進化的に保存された分子機構の存在があると仮定し、その解明を行った。候補因子の中からBTBD3という因子に注目しその機能解析を行った結果、マウス体性感覚野、フェレットの視覚野において、BTBD3は入力の多い樹状突起を維持し、入力の低い樹状突起を除去する共通の機能を持つことを明らかにした。さらにこれらの結果をもとに、神経細胞がどのように神経活動の量をBTBD3に伝え、選択的な樹状突起の除去に結びつくのか、その詳細な分子メカニズムの解明を行った。本講義では外部入力依存的に引き起こされる脳回路発達の進化的に保存された分子機構を用いて、どのように哺乳類の脳が種特異的に進化したのかその可能性を探る。

 Many evidences suggest that early life experience changes brain function.  However, how exactly experience changes neuronal activity and consequently refines neuronal circuit is largely unknown.  I will introduce our recent findings, which is about detailed molecular mechanism of neuronal input dependent dendrite patterning in mammalian cerebral cortex.   In our previous study, we showed BTB domain containing protein (BTBD3) plays important role to change dendrite orientation toward higher neuronal input (Matsui et al., Science 2013).  We also showed that function of BTBD3 is conserved in mouse somatosensory cortex and ferret visual cortex.  We have further revealed partner molecule for BTBD3 to respond to neuronal activity and remove excess dendrite.  Knock out mouse of BTBD3 partner molecule showed aberrant dendrite pruning activity.  Lack of BTBD3 biding domain also showed altered dendrite pruning activity in mouse somatosensory cortex.  Finally we revealed that the molecular pathway is conserved in ferret visual cortex to control visual input dependent dendrite patterning in ocular dominance column.   Taken together, the results implicate discrete molecular mechanisms for high-resolution sensory function, which is shaped by early life experience.

 

  • 教授のメッセージ
  • 代表的文献
  • 募集
  • 論文リスト
  • 機能生物学セミナー

TOPへ