機能生物学セミナー(平成27年度)

医学共通講義III 機能生物学入門

生体がどのようにして機能を発揮するかという根源的な問題の解決には、様々な角度からのアプローチを有機的に連結していくことが必要です。本講義では、中枢神経系の機能発現メカニズムを中心として、以下のテーマに関連した研究を紹介し、どこまで解明が進んでいて、今後どのような研究が必要なのかについて解説されます。記憶形成・想起メカニズム、記憶・学習の分子機構、嗅覚神経系の機能発現メカニズム、視覚受容の細胞メカニズム、シナプス伝達調節機構、グルタミン酸受容体の分子機構、細胞内カルシウムシグナル機構、発生・分化の分子機構など。

平成27年度

2015年5月18日 14:55~16:40 詳細
演者:自然科学研究機構・生理学研究所 池中一裕 先生
場所:第6セミナー室 担当:細胞分子薬理学 飯野正光 教授

 

2015年9月7日 14:55~16:40 詳細
演者:理化学研究所脳科学総合研究センター  内匠 透 先生
場所:第6セミナー室 担当:分子生物学 後藤由季子 教授

 

2015年10月5日 14:55~16:40 詳細
演者:京都大学 渡邉 大 先生
場所:第6セミナー室 担当:神経生理学 狩野方伸 教授

 

2015年11月16日 14:55~16:40  詳細
演者:東京大学 佐々木拓哉 先生 
場所:第6セミナー室 担当:薬品作用学 池谷裕二 教授

 

2015年12月14日 14:55~16:40 詳細
演者:大阪大学 藤田一郎 先生
場所:第6セミナー室 担当:構造生理学 河西春郎 教授

 

2016年1月18日 14:55~16:40 詳細
演者:北海道大学 根本知己 先生
場所:第6セミナー室 担当:システムズ薬理学 上田泰己 教授

 

2016年2月15日 14:55~16:40  詳細
演者:基礎生物学研究所・東京大学 松崎政紀 先生
場所:第6セミナー室 担当:松崎政紀 教授

 


■2016年2月15日 14:55~16:40  第6セミナー室
イメージングと光遺伝学で探る大脳皮質運動野機能と運動学習
基礎生物学研究所・東京大学 松崎政紀 先生

近年の蛍光プローブ、光遺伝学、多光子顕微鏡などの開発、改良によって、個体動物で多数の神経細胞の活動を長期間計測することや制御することが可能となってきた。特に、覚醒下で課題実行中動物の多細胞活動をイメージングで捉えらえるようになったことは、行動と神経細胞活動の集団ダイナミクスを、大量計測データの中から関連づけることが可能になったことを意味する。我々は、頭部固定マウスにおいて前肢でレバーを操作すると水が与えられる、というオペラント運動課題を世界に先駆けて構築した。そして、課題実行中のマウスの大脳皮質運動野の2光子カルシウムイメージングを行い、運動学習に伴う細胞活動ダイナミクスを明らかにしつつある。また光遺伝学的手法によって、覚醒マウスの運動野全域にわたる複雑な動作のマッピングに成功した。これらの研究についてその解析方法も含めて紹介する。また、行動を創出する大脳回路機構の全貌を理解していくための新たな技術開発についても議論する。

2016年1月18日 14:55~16:40  第6セミナー室
新規レーザー光技術を用いた生体機能の顕微可視化法の原理と応用
北海道大学電子科学研究所 根本知己 先生

生命機能の形態学的基盤、分子機構の理解は生命機能の創発原理の解明にとって重要な情報を与えてきた。さらに近年の光学顕微鏡に関連した技術の進歩は、”in vivo”(ありのまま)の状態での細胞機能の定量的な可視化解析を可能とするのみならず、古典的な生化学的手法では集団平均に埋没していた細胞個性(不均一性、履歴)の実在と生理機能の関係性もまた提示しつつある。そこで本講義では、このような新規バイオイメージング手法の展開を加速させてきた光科学、特に多光子励起過程や高次高調波発生などの非線形光学やレーザー技術、及び、多光子顕微鏡、超解像顕微鏡などについて、その理論的基礎や応用可能性を議論する。

2015年12月14日 14:55~16:40  第6セミナー室
両眼立体視の脳内メカニズム:二つの目で見る世界が立体感を伴うしくみ
大阪大学大学院生命機能研究科 脳情報通信融合研究センター 藤田 一郎 先生

 二つの目で見る世界は、明確な立体感を伴っている。個々の物体は体積を持ち、奥行き位置の異なる他の物体との間には空間があることが、「理解できる」だけでなく、ビビッドに「感じられる」。この3次元知覚は、左右の目が異なる角度から世界を見ていることに起因している。二つの目は左右にずれて配置されており、それぞれの網膜に映る像には水平方向に微小なずれ(両眼視差)が生じる。重要なのは、個々の視覚特徴が生じる両眼視差がその特徴と注視面の間の奥行きの差に比例していることである。視覚系は、この幾何学的関係を利用し、両眼視差に基づいて敏感な奥行きの感覚(両眼立体視)を実現し、対象物体の認識と操作を可能にし、さらには3次元空間での移動を補助している。これらの機能を実現するためには、視覚系は左右の網膜に映る像の対応関係を正しく特定しなくてはならない(両眼対応点問題)。自然状景には多くの似た視覚特徴が含まれているため、この問題の解決は容易ではない。例えば、葉の生い茂った木を見ているとき、片方の目に映る一枚の葉は、もう一方の目に映る数多くの葉の多くと対応づけが可能である。左右眼における視覚特徴の間には無数の対応づけが起きうる。その中で、一組の対応づけだけが視野全体を通して一貫性を持っており、脳はこの大域対応を見出し、偽の対応は排除しなくてはならない。両眼立体視に関する情報処理は、従来、一次視覚野から頭頂葉へと向かう背側経路が担うと考えられてきたが、我々を含む数研究室の研究から、側頭葉へと向かう腹側経路もまた関与することが判明した。大域対応を検出する両眼対応計算が、腹側経路の中段、V4野と呼ばれる視覚領野で行われていることを我々は最近明らかにした。

  本講義では、上記の我々の研究成果を中心に、「左右網膜像の位置ずれ」という幾何学的に定義できる物理量が、「奥行きの見え」という心のできごとへと変換されていく神経メカニズムを紹介する。

2015年11月16日 14:55~16:40  第6セミナー室
海馬体における時空間表象と記憶のメカニズム
東京大学大学院薬学系研究科 薬品作用学教室 佐々木 拓哉 先生

 海馬体は内側側頭葉に位置し、時空間情報を含む陳述記憶の中心的役割を担う脳領域とされる。動物が特定の場所にいるときに選択的に活動する海馬場所細胞は、2014年のノーベル賞の対象にもなり、大きな注目を集めた。本講義では、場所細胞に関する研究アプローチや知見を概説することで、海馬体が担う情報処理機構について理解を深める。さらに近年では、海馬細胞の活動パターンは、現在の時空間情報の処理を担うだけでなく、将来起こるエピソードの表象にも重要である可能性が示唆されつつある。こうした独特の発火シークエンスの特性や形成メカニズムについて紹介し、その生理的意義や今後の研究課題について考察する。

  参考文献
T. Sasaki, S. Leutgeb, *JK. Leutgeb. Spatial and memory circuits in the medial entorhinal cortex. Curr Opin Neurobiol, 32: 16-23, 2015.

2015年10月5日 14:55~16:40  第6セミナー室
音声の獲得と制御の神経機構
京都大学大学院医学研究科 生体情報科学講座 渡邉 大 先生

 ヒトは、他者を観察しその行動を模倣する所謂「社会学習」を通じて、言語をはじめ様々な能力を獲得し、さらに世代を超えて文化的に伝承していく。このように社会学習は、集団や子孫の認知行動面に大きな影響力をもつヒトにとって重要な学習形態である。しかしながら、社会学習およびこれにより獲得される言語のような高度な能力に関する神経機構について詳細は不明である。その理由として、哺乳類モデル動物では、実験室の環境で社会学習を観察することが困難であることが挙げられる。一方、スズメ亜目の鳥類(ソングバード)は、ヒトと同様に音声コミュニケーションの能力を模倣により学習し子孫へ伝承する。さらに、ジュウシマツなどの種では、音声がヒトの言語にもみられる一種の文法規則に従って多様に変化する。

 我々は、脳がどのように文法情報を扱うか研究するために、発声中のジュウシマツ個体の音声制御系回路より神経活動を計測した。その結果、前運動皮質領域HVCから基底核への投射ニューロンの神経活動が音声パターンの規則(音素タイプ、音素間の遷移、反復の開始・終止・回数)を表現していることが明らかとなった。HVCは聴覚系皮質および前頭前野より入力をうけることから、これらの上流の領域を解析することで文法情報の生成プロセスが明らかになると期待出来る。さらにこれらの鳥類に分子遺伝学的な解析手法を導入することで、社会学習の神経機構に関する研究の進展が予想される。

 本講義では、ソングバードの研究によって得られた社会学習および音声スキルの神経機構について、最新の知見も含めて紹介したい。

2015年9月7日 14:55~16:40  第6セミナー室
自閉症の生物学
理化学研究所脳科学総合研究センター 内匠 透 先生

 自閉スペクトラム症は、子どもの精神疾患として社会一般にも広く知られる病気になった。世界的にもその数は増加の一途であり、米国CDCの最新の報告では68人に一人という驚くべき数字も現れ、とりわけ少子化に悩む我が国をはじめとする先進国では、可及的速やかに解決すべき重要課題となっている。臨床医学の上からも、児童精神医学は、精神科及び小児科いずれにとってもマイナーな分野であり、研究の面でも、これまでは主に障害児教育をどうするかという教育心理学的なアプローチが中心であった。しかし、増え続ける対象児を前にして、対処療法ではなく、その根本的対応を必要とする時代が来たのである。幸い昨今の医学生物学の進歩により、自閉症研究も生物学的研究としてとらえられるようになった。我々は脳の生理機能を知るための手段として精神疾患をとらえているが、本講義では、自閉症のモデル研究を中心にした我々の生物学的研究の一旦を紹介し、議論の材料としたい。


2015年5月18日 14:55~16:40  第6セミナー室
グリアアセンブリによる脳機能発現の制御と病態
自然科学研究機構・生理学研究所 分子神経生理部門 池中一裕 先生

 脳神経系の機能は神経細胞が形成する神経回路によって担われている、と長い間信じられてきた。この概念は本当に正しいのか、本講義においてはこの点について解説したい。脳内には神経細胞だけでなく、グリア細胞と呼ばれる細胞群も存在する。しかも、その数は哺乳類では神経細胞よりも多い。重要なことは脳が高等に進化するに従ってグリア細胞の神経細胞に対する比が増えることである。このことはグリア細胞が脳の高次機能発現に重要な役割を果たしていることを示唆している。

 グリア細胞は大きく、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリアに分類される。アストロサイトは神経細胞へのエネルギー補給だけでなく、神経細胞の活動様式を調節していることも明らかとなってきた。オリゴデンドロサイトは神経軸索に髄鞘膜を形成し、伝導速度を速くする細胞として知られているが、最近この細胞が髄鞘形成後も神経伝導速度を調節していることが明らかとなった。また、その調節異常が精神疾患の原因となっているかも知れない。ミクログリアは各種病態で活性化されるが、その細胞は病状を改善しているのか、増悪させているのか不明である。われわれはこの細胞の性質の変化することが各種疾患の病態に大きな役割を果たしていると考えている。

 重要なことはこれらの細胞が互いに密に連絡を取り、ネットワークを形成していることである。グリア細胞間連絡は神経細胞間と比べて緩慢で、アナログ的交信を用いおり、またその交信範囲は脳の特定領域全体に及ぶ広範囲なものある。われわれはこの巨大グリアネットワークを「グリアアセンブリ」と名付け、脳機能発現における役割を明らかにすることを目的とし新学術領域を形成している。グリア間交信は神経活動がなくても自発的に起きるものであり、神経回路と連絡を取りながらも、神経回路とは独立して活動できる。そのためグリアアセンブリは神経回路の活性制御を通して、主体的に脳機能を調節している、ということも考えられる。これは今までにない概念で、ぜひとも本研究領域でその真偽を確かめたい。本講義においてグリアアセンブリの多様な機能について解説し、その異常による病態についても考察したい。

  • 教授のメッセージ
  • 代表的文献
  • 募集
  • 論文リスト
  • 機能生物学セミナー

TOPへ