機能生物学セミナー(平成29年度)

医学共通講義III 機能生物学入門

生体がどのようにして機能を発揮するかという根源的な問題の解決には、様々な角度からのアプローチを有機的に連結していくことが必要です。本講義では、中枢神経系の機能発現メカニズムを中心として、以下のテーマに関連した研究を紹介し、どこまで解明が進んでいて、今後どのような研究が必要なのかについて解説されます。記憶形成・想起メカニズム、記憶・学習の分子機構、嗅覚神経系の機能発現メカニズム、視覚受容の細胞メカニズム、シナプス伝達調節機構、グルタミン酸受容体の分子機構、細胞内カルシウムシグナル機構、発生・分化の分子機構など。

過去の機能生物学セミナー

 

平成29年度

 
 
 
  
 
 
 
 
 
 

2018年2月19日 14:55~16:40 第6セミナー室
神経活動依存的な視床皮質投射の形成機構
大阪大学・大学院生命機能研究科 山本亘彦 先生

 神経回路の基本構造は発生プログラムによって自律的に形成されるが、その細部は環境からの影響を受けながら学習的に構築される。この制御機構を詳らかにすることは、古くからNature vs Nurture(氏か育ちか)の問題として、神経科学の分野において重要課題の一つである。私たちは、大脳皮質の神経回路、特に視床皮質投射系でこの問題を細胞・分子レベルで解明することを目指している。感覚の中継核である視床細胞から伸長する軸索は一次感覚野の主として4層で分岐を形成し、皮質細胞とシナプス結合を作る。この軸索分岐パターンは哺乳類で共通であるが、生後の感覚入力、すなわち神経活動により変化することが知られている。では、神経活動によって、どのようにして軸索分岐は変化するのであろうか? これまで、私たちは主としてin vitroの実験系を用いて、皮質内での視床軸索分岐が神経活動により促進されること、その際に視床軸索と皮質細胞の両方の神経活動が必要なことを示してきた。さらに、その分子機構として、1)皮質細胞で神経活動に依存して分岐形成を制御する因子が産生されること、2)視床軸索では活動依存的な細胞骨格制御機構が存在すること、3)皮質細胞の樹状突起形成を促進する視床由来因子よるポジティブフィードバック機構が存在することも明らかになってきた。本セミナーでは、これらの軸索分岐制御機構に加えて、神経活動が効果分子の発現や活性化を制御する転写調節機構に関する最近の結果を紹介し、神経回路形成の不思議に迫りたい。


2018年1月15日 14:55~16:40 第6セミナー室
深層学習の最前線とこれから
株式会社 Preffered Networks 取締副社長 岡野原大輔 先生

現在、深層学習は画像認識や音声認識、ロボットの制御など様々な問題を解くことに成功している。これらの多くは大量の教師ありデータを使った教師あり学習や人手で設計された報酬を元に膨大な試行錯誤をした強化学習を利用している。一方、世の中の大部分のデータには正解はついていなく、明確な報酬が与えられない。今後、より難しい問題を解くためには、こうしたデータから学習を行う教師なし学習が重要になると考えられる。この教師なし学習の目標はデータのもつれを解き(disentanglement)、データの最適な表現方法を獲得すること、観測だけでなく、新しいデータを生成し、様々な条件でシミュレーションできるようになることである。それにより少数の学習事例や試行錯誤から学習し、汎化できるようになると考えられる。本講演では深層学習の最前線と教師なし学習を中心とした今後の展望について述べる 



2017年12月11日 14:55~16:40 第6セミナー室
化学プローブを用いたイメージングで初めて明らかになる生命現象
大阪大学大学院工学研究科 菊地和也 先生

演者は生体内において機能を可視化したい分子との反応に着目して化学プローブをデザインすることで分子デザインを起点とした生命科学研究ができないかと考え、分子認識あるいは酵素反応を分光情報へと変換できる蛍光及びMRIプローブをデザインしてきた。この様なChemical Biology(化学を用いた生物学研究)は20年程前から注目を集めるようになってきたが、生物学における新たな機能解明まで言及されることは少ない。実際に演者の研究室においても、試験管内では機能しても細胞や動物個体内では機能しない場合の方が、成功例よりは多い。しかしながら、化学プローブには測定対象についての分子デザインの自由度が大きい、光耐性や蛍光波長を制御しやすい、等の長所を有する。本講義ではこの様な利点に基づき、化学プローブを用いたイメージング技術で初めて明らかにすることができた生命現象、について紹介したい。

 


2017年11月20日 14:55~16:40 第6セミナー室
高次脳機能に関わる中枢神経系免疫細胞の生理機能
神戸大学大学院医学研究科 システム生理学分野 和氣弘明 先生
 
高次脳機能は様々な脳領域における個々の神経細胞が時空間的に整然と発火することによって、叙述的な神経細胞集団活動(=神経回路活動)を創出することによって効率的に発現する。近年、これらの高次脳機能に伴う神経・グリア細胞集団の活動が2光子顕微鏡をはじめとした新規光学技術によって検出されるようになり、その発現に必要な機能的要素が明らかとなってきた。とくに中枢神経系免疫細胞であるミクログリアはシナプスに直接接触することによって、シナプスに対して様々な機能を持つことが明らかとなってきている。本セミナーではこのようなミクログリアに着目し、明らかとなってきたその生理機能を概説するとともに、高次脳機能への関与を示す。さらに精神疾患などにおけるミクログリアの変化を議論したい。


2017年10月16日 14:55~16:40 第6セミナー室
上皮の透過性を制御する細胞間結合の分子機構
生理学研究所・細胞構造研究部門 古瀬 幹夫 先生
 

タイトジャンクションは、上皮細胞同士の隙間における漏れを制御することによって上皮バリア機能と上皮輸送を調節し、恒常性維持に重要な役割を果たす細胞間結合である。これまでの研究から、その接着分子クローディンファミリーのサブタイプの組み合わせが細胞間隙の透過性を規定するという基本概念が確立している。さらにクローディン遺伝子欠失マウス、クローディン遺伝子変異に起因する疾患の解析から、各器官の上皮バリア・輸送におけるタイトジャンクションの重要性について理解が深まりつつある。一方、上皮には3つの上皮細胞の角が接する「3細胞結合部位」が多数あり、上皮が十分なバリア機能を発揮するためにはこの部分における物質の漏れも防ぐ必要がある。3細胞結合部位には「トリセルラータイトジャンクション」と呼ばれるタイトジャンクションの特殊な構造が存在するが、その形成機構や機能についてはいまだ不明な点が多い。本セミナーでは、上皮透過性を規定する分子メカニズムの全貌の解明を目指して私たちが取り組んでいるトリセルラータイトジャンクション研究について、構成分子の同定とその機能解析の現状を紹介する。


2017年9月11日 14:55~16:40 第6セミナー室
深層ニューラルネットワークと脳の相同性とその応用
京都大学 大学院情報学研究科/ATR脳情報研究所 神谷 之康 先生
 

深層ニューラルネットワークは、脳の基本素子であるニューロンやシナプスの機能にヒントを得て作られた数理モデルであるが、近年は脳のモデルとしてではなく、汎用的な機械学習手法として研究され、応用分野において顕著な性能を示している。画像認識においては、畳み込みと非線形演算からなる階層的ネットワークを大規模画像ビッグデータで最適化することで、高精度な物体認識が可能になるだけでなく、各階層に異なるレベルの複雑さを持った特徴が自動的に抽出される。われわれのグループは最近、機械学習を用いて脳活動パターンから認知状態を解読する脳デコーディング技術を応用して、画像を見ているときのヒト視覚野の活動パターンから、同じ画像を入力としたときの深層ニューラルネットワークの信号パターンを予測できることを発見した。本講演では、深層ニューラルネットワークと脳の情報表現の階層的な相同性(ホモロジー)とそれを利用する技術の可能性について議論する。

 


2017年7月3日 14:55~16:40 第6セミナー室
ゴールに向けた行動の評価と選択に関わる大脳基底核の神経回路機構
玉川大学 脳科学研究所 木村 實 先生

 

人間や動物は、将来の目標に向けて計画を立て、実際に行動した結果の良し悪しによってアプローチを改善しながら到達する。その過程には大脳基底核の神経回路が主要な役割を担うことを示唆する知見が蓄積している。一般的には、大脳皮質と視床から線条体に投射する行動、記憶、価値や注意などの情報が中脳ドーパミン細胞由来の報酬や動機づけ信号によって修飾を受けて、目的志向的・習慣的な行動信号が直接路と間接路を介して送りだされると解釈されている。近年神経回路基盤に関する多くの研究がなされているものの、論争も続いており、不明な点が多い。目標に向けた意志決定、行動選択と学習の過程に直接路と間接路が回路特異的な仕組みを担うと考え、検証するための研究を行った。トランスジェニックラットと光遺伝学によって線条体の直接路細胞と間接路細胞を同定し、報酬の大小に基づいて行動選択を行う際の活動を調べた。直接路細胞は行動選択の結果報酬を得て次に同じ選択をする時に活動し、間接路細胞は無報酬の結果次の選択を変更する時に強く活動した。光刺激によって直接路細胞の応答を促進・抑圧すると、同じ行動選択の確立が増大・低下した。間接路細胞の無報酬応答を増大させると、選択を変更する確率が増大した。これらの新しい知見は、線条体の2つの投射系が行動結果を異なる様式で評価し、相補的な役割によってより多くの報酬を得るための行動選択に貢献することを示す。ドーパミン系を中心に関連する他の研究と併せて、大脳基底核の神経回路機能を議論したい。



2017年5月8日 14:55~16:40 第6セミナー室
魚から心の仕組みを探る
理化学研究所 脳科学総合研究センター 岡本仁 先生

私たちの研究チームでは、ゼブラフィッシュを実験材料にして、ヒトを含む哺乳類と共通の基盤を持つ行動の神経回路機構を研究している。本講義では、以下の2つのテーマに関して話したい。

I: 魚の脳を使って意思決定の仕組みを調べる

哺乳類の脳では、扁桃体、大脳皮質•基底核•視床ループ、中脳や後脳のモノアミン細胞などが、行動制御プログラムの成立と変更に関与する。本講義では、極小な硬骨魚類の終脳にも、これらの脳部位に相当する領域が存在することを利用し、ゼブラフィッシュを実験材料として、神経活動の可視化や人為的操作を行うことで、情動と記憶に基づき行動を制御するための脳の神経回路の働きをどのように明らかにできるかを、論じたい。

II: 動物は御互い同士でなぜ闘うのか、どのように闘いをやめるのか?

動物は、適者生存による進化を促進するために、同種間で闘う。この闘いは、様式化されており、どちらかが降参する時点で攻撃が止む。ゼブラフィッシュを使った研究から、手綱核と脚間核を繋ぐ並行して走る2本の神経回路の中で、片方が、降参をし難くし、もう片方が、降参をし易くするように働くことが明らかになった。この神経経路は、魚から人間まで進化的に保存されているので、魚だけでなくヒトを含めた哺乳類での、闘争の制御にも深く関わっていると考えられている。私たちは最近、マウスを使った研究で、進化的に相同な神経回路が、闘争の制御に深く関わっていることが明らかにした。


2017年4月17日 14:55~16:40 第6セミナー室
匂いやフェロモンが引き起こす情動行動表出の脳神経基盤
東京大学農学部 東原和成 先生

生物は、仲間、敵、異性などのシグナルを、嗅覚神経系で正確に識別します。本セミナーでは、マウスをモデル生物として、同種あるいは異種間のコミニュケーションに使われる情報分子とそれらの受容体の同定、そして行動や情動変化が引き起こされるまでの脳神経回路の解明への取り組みについての話をします。

高次脳機能に関わる中枢神経系免疫細胞の生理機能

  • 教授のメッセージ
  • 代表的文献
  • 募集
  • 論文リスト
  • 機能生物学セミナー

TOPへ